ミツバチの“大量失踪”が、果樹や野菜などを生産している世界の農家を直撃している
この状態が続けば、農産物の価格上昇などとなって消費者にも跳ね返る
消えたミツバチの背景を追うと、殺虫剤や抗生剤などの化学物質や薬品、
ハチの生態を無視した酷使など人間の都合が追い込んだ“自然の変質”が見えてくる
ミツバチが巣箱から大量失跡する「蜂群崩壊症候群」(CCD)が、2006年秋以来、欧米各地に広がっている
ふだんはパンに塗るハチミツやプロポリスなどの製品ぐらいにしか目が向かないが
たった1種の昆虫が農業を支えていたことを改めて思い知らされ、世界はミツバチ・ショックに見舞われた
CCDは全米50州中の28州に拡大し、1940年代には全米で600万あった巣箱は、最近では200万箱を割り込んだ
全体の45%の巣箱が被害を受けた
さらにカナダ、イギリス、ドイツ、スイス、スペイン、ポルトガル、イタリア、ギリシャなどにも広がった
北半球全体で4分の1のミツバチが消えたとみられる
その数は数百億匹ともいう
飼っていたミツバチが全滅した養蜂家も少なくない
最も被害が深刻だったのは、巣箱を各地に移動させて果物や野菜の受粉を行う大規模養蜂業者だ
それでなくても、中国、タイ、ベトナムなどからの安い輸入ハチミツに押されて、養蜂場は衰退に向かっていた
受粉をミツバチなどの動物に頼っている果樹や作物は約130種
その価値は年間約1120億〜2000億ドルといわれており
食料生産の3分の1を占めると推定される
これらの農作物には、ほとんどの果物、野菜、ナッツ類だけでなく、家畜の飼料も含まれる
作物の受粉に必要なミツバチが確保できなくなる、という不安が世界的に高まっている
米国養蜂業協会の緊急アピールには
「皆さんの日に3度の食事は、ミツバチが働いたおかげです」という文言が入っている
ハチの種類は2万種にもなるが
花蜜を効率的に集めるのはミツバチ、それもセイヨウミツバチにかなうものはいない
米カリフォルニア州のアーモンド生産は、花粉媒介産業の最大規模の例としてよく取り上げられる
毎年2月中旬から3月中旬にかけて600億匹近いミツバチを集め
22万3000haに及ぶアーモンド果樹園で花を受粉させる
農業が「工業化」すればするほど、この昆虫の比重が増している
大量失踪の原因は、携帯電話の普及による電磁波説から
地球温暖化原因説、遺伝子組み換え作物、殺虫剤、抗生物質、栄養不艮、
外来種で猛威をふるう凶暴なアフリカミツバチの圧迫、果ては宇宙人による拉致説……と、まさに百花繚乱だったが
もうひとつ決め手がない
養蜂業界とダニとの長年の戦いで、さまざまな農薬が導入された
むしろ、そのダニ退治に使われた殺虫剤がミツバチに有害だったのでは、とする報告も相次いでいる
殺虫剤汚染で鳥が鳴かない「沈黙の春」をもたらすと警告したレイチェル・カーソンは
昆虫が死に絶えて「花粉交配が行われず、果実が実らない」という「沈黙の秋」がくることも警告していた
ペンシルバニアのリンゴ園で、花粉と蜜蝋を196例を調べたうち、193から43種の殺虫剤が見つかった
1検体につき平均5種の殺虫剤が見つかった
このなかでも、新たに広範に使用されるようになったネオニコチノイド系殺虫剤が
ハチの行動に影響を与えると指摘する養蜂家が多い
ネオニコチノイド系殺虫剤は
これまでの有機リン系殺虫剤に比べて人体への影響が3分の1以下といわれ
巣箱の消毒からペットのノミ駆除、園芸用までさまざまな商品名で売られている
しかし、昆虫の神経系をマヒさせることがわかっている
個々のミツハチは高度な社会性昆虫で
全体で1つの生命体であるかのように互いにコミュニケーションを取り合い、助け合い、生息している
神経が麻痺するということは、この社会性が維持できなくなり生存能力を失うとことでもある
また、昆虫の免疫系を弱体化させるという研究結果も出ている
ミツバチにごく微量のこの殺虫剤を与えただけで
飛べずに落下したり方向感覚を失ったりする例が続出した
しかし、1990年代から使われているこの殺虫剤が、なぜ最近になって害を及ぼし始めたかの説明がつかない
最近出版された『ハチはなぜ大量死したのか』(ローワン・ジェイコブセン著)では
ミツバチが農薬汚染、多くの天敵や病原体に囲まれ
なおかつ授粉のために各地を転々として酷使され
そうした複合した原因によってストレスがたまり、弱って消えていったとする説を提唱している
人間の“働き蜂”と共通項が多く、妙に納得させられる
作物の開花期に合わせて数週間ごとに長距離を運ばれて新しい土地に連れて行かれる
本来は働かない季節外でも、まったく違った気候の下でも
ハチミツを集めるように改良されたハチたちは
糖度の高いコーンシロップで気合いを入れられ、殺虫剤と抗生剤を投与されひたすら働かされる
ハチミツ1ビン(450g)入りのために、ミツバチは1万7330回もミツを集めに出かけ
1回の飛行は平均25分で500個の花を回ってくる
7221時間も働きづめに働いてやっと1本のビンでしかない
どうみても重労働である
世界に冠たる日本の働き蜂も、とうてい足元にも及ばないだろう
ミツバチの歴史のなかで、現在ほどストレスが多く環境が激変した時代はなく
彼らの祖先が一度も経験したことのなかったような重圧にさらされている
現実には、外国産の安いハチミツに追い詰められ
CCDによって数が減り、残されたハチはいよいよ労働がきつくなった
しかし、これらの要素がどのように崩壊を引き起こすかは、まだわからない
過労死なのか、体力や免疫力が弱って、ダニやウイルスや殺虫剤に抵抗できなくなったのか……
日本でも、果樹や野菜の栽培ではミツバチに頼っているものが多い
農家は借りたり買ったりしてミツバチを確保できなければ
人の手で花を1つずつ受粉しなければならない
それでなくても日本の農家の高齢化は進んでいて人手不足は深刻だ
日本は主にオーストラリアから女王バチを輸入し、国内で働きバチを増やす方式でやってきた
しかし、病気の流行でオーストラリアからの輸入が停止され
さらに働きバチの大量死によってミツバチの不足が深刻になってきた
農水省の調査では、山形(サクランボ)、栃木(ナシ)、静岡(イチゴ)、岡山(イチゴ)、鹿児島(メロン)など計21都県でミツバチが不足している
このままミツバチの不足がつづくと
果物や野菜の出荷量が減ったり、価格が上がったりして消費者にも影響がおよんでくる可能性が心配されている
ECO JAPAN −成長と共生の未来へ−より
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